ラグビーワールドカップが始まっています。これを書いている時点で日本代表がベスト8(決勝トーナメント)に出られるかどうか決まっていませんが、出られたらいいなあ。

ラグビーはルールや戦術が複雑なのでとっつきにくい印象があります。でもいくつかルールを覚えれば、基本的に陣取りゲームなので、実はとてもわかりやすいスポーツです。時間があったらぜひテレビ観戦してみてください。出場国は世界のトップレベルなので、スピードもぶつかり合いもパスの技術も次元を超えたレベルです。

ところで、観戦しているうちに気づくと思うのですが、ラグビーでは選手が審判に抗議する場面がありません。野球でもサッカーでもテニスでも、抗議場面をしばしば見ますが、ラグビーでは皆無。これはラグビーが紳士のスポーツということもありますが、もっと大事な考え方があるのです。

ラグビーは審判不在で始まったスポーツであり、なにか不都合があると選手同士で反則を決めたり適用するのが普通だったのですが、あまりにプレーがスピード化・複雑化したため第三者に判定してもらおうということになったのです。だから選手たちは審判に対して感謝と尊敬の念を持って接する文化ができ、審判の判定を絶対的に尊重するようになっているのです(もちろんクリーンなスポーツを目指したラグビー協会の努力もありました)。そしてその判定に疑問がある場合は選手(おもにキャプテン)は審判に「抗議」ではなくその「解釈」を質問します。その答えから試合の審判の考え方やルールの適用の「クセ」を知り、チームの戦術に生かしていくのです。

審判も「絶対的」な存在となるわけで、そうすると自分の判断に責任を持ちます。間違った笛を吹いたり一貫性のない判断をすると、誰かに批判される心配より「自分に恥ずかしい」と考えます。選手と審判が互いに自分の行動・相手の行動を尊重し、良い試合になるよう努力していくのがラグビーというスポーツなのです。これは私たちの生活の中でも心がけたい態度ですね。

日本人はどちらかと言うと「理屈と感情」を分けて考えることが苦手だと言われています。自分の考えと違うことを言われると「私を否定した!」と感じてしまったり、誰かの考えを否定しているつもりがその人の人格を攻撃してしまう・・・ということがよく起きます。SNSなどで炎上するのはたいていこのような「理屈と感情」をごっちゃにしてしまうことから起きています。
(もちろんどんな国でも似たようなことは起きますが)
ラグビーでは、選手たちはもちろん「勝って嬉しい!」「負けて悔しい!」という気持ちは持つのですが、「でもやっぱり同じラグビーという競技をする仲間だし、正々堂々とぶつかりあった相手を尊重・尊敬する」という論理(理屈)を大事にします。(だから選手たちは卑怯なプレイをしないように心がけます)

私達が大切にしたい「民主主義」の根本は、次のような言葉で象徴されます。
私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る
(フランスの哲学者のヴォルテールの言葉とされていますが、実際は違うようです)
違う考え、敵対する立場の相手でさえ尊重する。なかなか難しいことですが、心がけていきたいなあと思います。

ラグビー・ワールドカップ、日本はベスト8に進出しました。正々堂々と、肉体と知力を最大限に発揮した選手たちに感動しました。日本だけでなくどのチームの素晴らしいスポーツマンシップを発揮しました。
選手たちは事あるごとに「相手へのリスペクト」という言葉を発していました。リスペクトとは「敬意・尊重」という意味です。まさにラグビーの精神ですね。